無料ブログはココログ

森と林業と動物の本

2025/05/16

「桜井茶臼山古墳」展で見た!

昨日、急に思い立って、橿原考古学研究所附属博物館に行ってきた。ここで「桜井茶臼山古墳」の特別展をやっていたからだ。

Photo_20250516125701

この桜井茶臼山古墳、一般は無名かもしれないが、超注目株である。そして私も以前より気にしていた。

というのは、その石室には朱、つまり丹砂、硫化水銀による赤に染色されていたからである。これまでも朱は各地の古墳でも発見されているが、ここのは規模が違う。おそらく200キロ以上の朱を使い木棺や石を赤く染めていたのだ。

20250515-145054

と、ここまでは以前から知られていたが、今回は、発掘された鏡の破片を調べたところ、銅鏡が103枚分もあったことがわかる。こちらも図抜けた量だ。なぜ破壊されていたのかも謎だが。

全長200メートルを超える前方後円墳であることも合わせて、おそらく大王の陵の可能性が高いのだ。時代的には箸墓古墳のすぐ後ぐらい。もしかして卑弥呼の後を継いでヤマト王権を立ち上げた人物の墓かもしれない。これまで注目されてこなかったのが不思議。

橿原考古学研究所は、桜井茶臼山古墳の被葬者は「他の古墳の追随を許さない隔絶した地位にあった人物」であり、「3世紀末の奈良盆地には邪馬台国とは比較にならない圧倒的な王権が存在したことが明らかになった」

と発表したほど。

もっとも私は、古代史というより朱のような鉱物資源、そして木材の扱い方に興味があった。とくにこの博物館では、レプリカでない本物が見られるのだ。

だけど、最初に見て惹きつけられた発掘物は、これ。

20250515-144435

イノシシ型の木片! これに感動した(笑)。いやあ、これまでもシカやイノシシの土偶はあったが、木彫りですよ。動物を木で彫って現していたのですよ。これはいい。(ナスビではないか、という意見もあるようだけど。)

ほかにも土木道具など木でつくられた道具類が多数展示されていた。

古代史となると、石器、土器、そして青銅や鉄などの金属器へと移り変わることはよく説明されるが、それらの製作物の前に常にあり、またいずれも木材なしに石器も土器も金属器もつくれなかった。つまり最初に人間が利用したのは木具であり木器のはずなのだ。当時の人が木をいかに利用したのか、その木をどこから調達したのか……を考えると、森と木の文化の起源、林業の起源が特定できるのではないか。

日本の林業は、邪馬台国より昔から生まれていた……という私の仮説を裏付けるための探訪であった。

その後、常設展も見て回り、最後のミュージアムショップのところに奈良の古代史、とくに橿原考研に関わる新聞等の報道にあったものが壁一面(いや二面以上か)に張られていた。ここ数年、デカい発見がいろいろあったからなあ。。。富雄丸山古墳もあったなあ。。。と眺めていると、見つけてしまった。

20250515-160938

私の書いた記事を。私が日本の林業のはじまりを和邇(わに)氏とともに夢想して書いた記事を(⌒ー⌒)。もちろん橿原考研の研究員を取材したからだが…。
ヤマト王権の豪族、和邇氏こそがシステムだった木材生産、つまり伐採から輸送、加工までの技術を確立して産業としての林業を始めた祖ではないか。そこでは川に原木を流して運搬する技術を確立し、資源を尽きないよう持続的経営がなされていたのかもしれない。

20250515-160938-2

今の林業は面白くないから、これからは古代の林業へと目を向けるのだよ。

2025/05/11

万博コモンズ館の楽しみ方

大阪万博では、コモンズ館をよく見て歩いた。行列がないから。

たくさんの国が小さいながらもブースをつくっている。これが、なかなか楽しい。

ちなみに私は、多くの中でもパプアニューギニアとソロモンアイランズに足を止めた。どちらも行ったことがあるからなのだが、懐かしい景色を見る。そして担当者と話し込む。現地人もいるが、日本人スタッフが担当するブースも多い。彼らは毎日担当する国が変わるので、その国のことをよく知っているわけではないそうである。そこで私が教える側に回ったりするv(^0^)。そして、かつての旅の話で盛り上がる。

2_20250511120801
ソロモン諸島の木彫。私は、これと同じデザインのものを持っている。それで話が盛り上がる(笑)。
実は、アフリカや中南米、中央アジア、太平洋諸国……などの国々は、木彫展示が多い。それぞれの民族の木彫りの人形や仮面、道具類……などが豊富。もし木工品に興味がある人なら楽しめるだろう。

4_20250511172001

こちらは貝貨。貝殻に穴を空けてつないだもの。私も持っているv(^0^)。製造現場も見学した。現在は贈り物扱いかな。

6_20250511120801

こちらは東ティモールの布。私も持っているv(^0^)。東ティモールに行ったから。当時は国ではなかったけどね。インドネシアの占領下にあった。その後、壮烈な戦いの末に独立を勝ち取ったのだ。そういう歴史も思いを深める。
なお、この布は、かなり貴重品なのだ。現地の草木染めだったらすごい価値がある。こうした各国の織物、染め物の展示も多い。布好きの人なら楽しめるだろう。

ほかにも見どころはあるのだが,はっきり政治的主張を出しているところもある。

とくにウクライナ。そしてマーシャル諸島。前者はいうまでもなく戦争だが、後者は過去に68回だったかの原水爆実験が行われたことを展示している。こうした点に目を向けても興味深い。

また紛争国も数多い。南スーダンなど、何百万人もの難民を出し、今も激烈な内戦を続けているのに、結構立派な展示をしていた。
ソマリアは、現在3つの地域に分断されている(ソマリア、ソマリランド、ブントランド)のに素知らぬふりをして全部ソマリアだ!という展示。こうした国際情勢を読みながらの観覧も意味があるだろう。

かつて訪れた国、なんらかの点で興味を持っていた国。それらの展示を見るのは楽しい。認識を新たにされる面もある。

そうそう、ナウルも行った国だ。

1_20250511122001

なんにもナウルな展示。

2025/05/10

「並ばない万博」実践

大阪万博に行ってきた。

正直、たいして興味はないものの、万博について何か一言言ったり、書いたり、することを考えてまったく行ってもいないのでは格好がつかない。いわばアリバイ的に足を運ぶべきと考えたのである。ただ、もしかして想定外に面白かったり……という期待?もなくはなかった。

そこで自らに課したルールは、「並ばない万博」である。これ、大阪万博自体のキャッチフレーズでもある。並ばなくても入れますよ~と来場を呼びかけているのだ。ところが報道によると、どこのパビリオンも、わりと並ぶというではないか。だが、私は「並ばない」。

いかに並ばないか? 簡単である。行列のできているパビリオンは入らない。

それだけ。徹底的に行列は排除した。そしてすいているパビリオンを駆け足で回るのである。

20250508-085839

と、ところが……入場時に並んでしまった(゚д゚)。30分くらい。これが最長の待ち時間であった。

それでも、入場できるや否や、駆け足で行列のないところをアタック! 結果的に20以上のパビリオンに入れたかと思う。コモンズ(小国が共同で展示スペースを設けているパビリオン)を多く回ることになったが、おかげで国としては50カ国以上になったのではないか。

すると、午後2時過ぎには、回るところがなくなった。帰ろうかな、と思ったのだが、さすがにそれではもったいない。そこで多少は並ぶことを自らに認めることにした。30分まで?とか思ったが、実際に並びだすと我慢ならず、10分までの行列待ちならよいことにする。幸い夕刻になると全体に空いてくるので、たいてい10分で入れる。20分待ちと看板を出しているところも、ほぼ半分の時間だ。

内容については、また紹介するかもしれないが、とりあえず言えることは、パビリオンも千差万別。なかにはヤッツケで展示したようなレベルの低い館も結構ある。おつきあい参加なのかもしれない。仕方ないね。力を入れたのかもしれないけど、ピントがズレたのか全然わからないもの。パビリオンの建物は力を入れたのようだけど、展示の中身のないもの……いろいろだあ。

4_20250510202101

ただ、多くのパビリオンが木製であり、木を意識した使い方をしているという点は感じた。木材使ったら環境に優しいもんね、SDGsだもんね、という意識なのか……とひねた目で見てしまったのであった。その中でも、やはり魅せるのは大屋根リングだろう。これだけは見応えある。

意外と紹介されていないが、リングは二段構造である。2本のルートがあるのだ。その合間には花壇や芝生もあったりする。だからリング上を全部歩こうとすると、一週2キロだから、4キロになる。私の歩数計は3万歩に届きそうになった。覚悟しよう。

 

2025/05/09

森林鉄道はなぜ人気なの

なぜか、今朝は森林鉄道の話題がやたら目につく。

廃線から半世紀「王滝森林鉄道」の歴史を伝える貴重な品が上松町の民家に眠っていた

まずは木曽から。

大正時代から約60年にわたり、木曽谷で木材の運搬を担った森林鉄道で使われたタブレット(通行票)や蒸気機関車の銘板が、木曽郡上松町の民家に残されていたことが6日、分かった。同町と同郡王滝村をつないだ幹線「王滝森林鉄道」が1975(昭和50)年に廃線となってから5月末で半世紀。当時を知る人が少なくなる中、鉄道愛好家は「森林鉄道の物語を伝える大切な資料」と評価している。

なんだかお宝発見!風に書かれているが、ようするにタブレットや銘板。これ、鉄オタには通じるが、一般人にはなんのことやら(笑)。鉄くずに見える。でも、ヤフオクにでも出せば、高く売れそうだ

そして台湾からのニュース。

阿里山鉄道を世界遺産に 立法委員、日本との連携を呼びかけ

こちらは世界遺産をめざす動きだ。

台湾は日本統治時代に林業の拠点とされた阿里山(南部・嘉義県)を「阿里山林業・鉄道文化景観」として世界遺産に登録することを目指している。与党・民進党の蔡易余立法委員(国会議員)は7日、日本統治時代に阿里山林業鉄道が建設されたことを背景に、国境をまたぐ世界遺産として申請されるよう、日本との連携を模索すべきだと訴えた。

7_20250509144701嘉義市鉄道園にあ当時の蒸気機関車

台湾独自の世界遺産申請は、中国が絶対に邪魔するから通りそうにない。そこで日本時代につくられたものだから、という理屈で両国一緒に申請できないかという、ちょっとアクロバティックな発想から出た策のようだ。

それはそれとして、台湾の阿里山鉄道に関する思いは只事ではない、と昨年訪れて私は感じた。起点となる嘉義の町などには市立博物館や阿里山博物館、林業村、林業鉄道園、森活村などいくつもの記念施設、観光施設があるが、どこでも阿里山でイチオシなのが鉄道なのだ。山ではなく。そこにある(あった)タイワンヒノキの大木群ではなく。

7_20250509144702嘉義市博物館のジオラマ

観光として重要というだけでなく、阿里山鉄道に対する愛?を感じた。

5_20250509144701現代の車両(阿里山沼平駅)

私はチケットが取れずに乗れなかった(それだけ人気なのだ)が、各地で阿里山鉄道の展示を目にして鉄分多めを感じた(笑)。私はついていけなかったけどね。。。巨木林はなくなってしまったからだろうか。

 

なぜ、森林鉄道、そして登山鉄道は人々の郷愁を呼ぶのだろう。小さく可愛いとか、歴史を感じるとか、山を登るから景色がいいとか。理由はいろいろ浮かぶが、少なくても林業とつながる興味ではなさそうだ(^^;)。ようするに集客力があるのだ。

いっそ、日本でも森林鉄道を復活させて、木材の運搬を担えば、CO2排出量を減らせるし、林道建設による山腹破壊も減らせる。そして観光開発にもなるのではないか。鉄オタだけを相手にするのではなく、一般人も招いて林業現場見学ツアーも催し、それでお金を落とさせて総合的に稼ぐ林業を構築する……そんな夢ある大風呂敷……もとい林業再生計画を誰か描いてくれないかなあ。

 

2025/05/01

生物多様性への森林施業事例集

林野庁が、「国有林野の森林施業における⽣物多様性への配慮事例集」というものを発行していた。

国有林ばかりだが、各地で生物多様性に寄与する方法を模索している。皆伐ばかりしている罪滅ぼしか(^^;)\(-_-メ;)。

大きく残存木を利用するもののと植栽するものがある。また地拵えから間伐、主伐までそれぞれの段階の工夫もしているみたいだ。

1_20250429165001  2_20250429165001

林業現場を見ていると、何も考えずに旧態依然とした施業をしているところが目につく。しかし再造林や低コスト施業が言われるだけでなく、生物多様性など地球環境的な課題の指摘も増えているだけに、もっと施業法を見直すべきだろう。
また山主や森林組合の中にも、生物多様性を気にかけているところもある。しかし、実行するには技術的なバックボーンがないと二の足を踏む。

実際、国だけでなく、都道府県、市町村、大学・研究機関、民間と、さまざまな部署で、林業における新しい施業法を試しているところはあるはずだ。
残念ながら、各試行の結果がまとまって報告されていない。ぜひ一体化して、それぞれの実験的工夫とその成果を一覧できるサイトをつくってほしいものだ。

もっとも、この事例集、細かな点はともかく、全体として試み方が似通っている。もっと大胆な実験も紹介してほしい。以前、大分県の国有林で「3本巣植え」という手法を試した例を紹介したが、そんな実験は各地でやっているはずだ。

混交林づくり

保持林業も広がっているし、針広混交林づくりも各地で行われている。奈良県なんぞ市町村別にやっている。そうした事例を網羅してくれたら、参考になると思うのだが。

2025/04/23

オタクじゃない福岡巡礼

最初に言っておくと、私はオタクではない。好奇心は旺盛だが、興味をテーマを一つに絞ることなく、また深入りしすぎず、反対意見も尊重し、あえて距離を置く覚悟も持ち、常にバランスを重んじている。ましてや常識を失うかのような行動は取らない。写真撮りまくって、推しがどうのと超深度の専門知識をひけらかし、一人興奮してまくし立てたりしないのである。

先週末から4日間ほど福岡に行っていた。最初は私が青春時代を過ごした北九州なのだが、かつてここは鉄オタの聖地であった。私が住んでいた頃は、SL、蒸気機関車が操車場にあふれるほど集結しており、私は毎日眺められる環境で暮らしていた。

それに九州最北端の駅があり、西鉄の路面電車が走り回り、門司港も、かつては石炭輸出などの日本有数の貿易港だったうえに、海外航路の拠点であったから旅客船があふれていた。

今は寂れつつあるのは仕方ないが、むしろ「門司港レトロ」で売り出し中で、一大観光地化に成功している。街中では外国人の姿も多い。だが私は賑やかな施設になるべく背を向けて、ひたすらセンチメンタルジャーニー。昔の記憶の断片を追うのさ。

20250418-133226 

5_20250423091201
関門海峡ミュージアム

6_20250423091201
台湾航路の旅客船高千穂丸

が、私の本題はこれじゃない。以前より狙っていた大刀洗飛行場跡地の平和記念館へGOだ!

ここで何としても見たかったのは、これ!

20250420-114055 20250420-105233

幻の局地戦闘機、震電! エンテ式(前尾翼・プロペラが後部にある形式)で実用一歩手前まで行った秘密兵器だ。時速700キロ超え、超高々度まで急上昇して、B29を30ミリ砲4門という驚異の重武装で一撃で撃墜する(予定)だった。その実物大模型が展示されているのだ。

高校生の頃から憧れの機体をついに目にすることができた(感涙)。

さらに重要なのは、この機体はゴジラと戦ったこと! 1947年に日本を襲ったゴジラ-1を見事仕留めたのだ(涙涙)。それも雪風、響などの駆逐艦とともに! 戦艦大和の沖縄特攻の生き残り艦隊である。これだけで興奮するではないか💢💢💨

644b9ec3233d4f6b

いや、私はオタクではないからね。興奮はしてない。してない。
で、次に向かったのは五郎山古墳。直径35メートルの円墳で、さして大きくない。だが。

まず展示施設五郎山古墳館に入る。

20250420-152104
本物そっくりのレプリカ。

この羨道を四つんばで奥へと進むと、真っ暗な石室が。それも前石室との複式である。そこでスマホの光をかざすと……。

20250420-145614

壁面に色とりどりの彩色壁画が!人がいて、動物が描かれ、家があり、船が鎮座する。これが何を意味するか。九州には彩色古墳が多いのだけど、その中でも描かれた点数は非常に多い。いったい6世紀後半の九州にどんなクニがあり、とどんな豪族が勢力を張っていたのか。

それにしても、こんな住宅街の中に、こんな古墳があるなんて!!! テンション上がるわ~。

隣の本物の古墳自体は公園になっているが、本物に入ってみたい。

これで終りではない。ほかにもアチコチ見て回ったのだよ。九州歴史資料館では、九州の古代史の片鱗に触れたし。山林王ならぬ炭鉱王の旧伊藤伝右衛門邸もね。炭鉱の歴史と明治の大富豪の暮らしを垣間見たいという気持ちから。

最後の締めはこれ。

20250421-124836

HOゲージのジオラマ。小倉にあるオタクの聖地である。いや、私はオタクではないのだけど、参考のため、勉強のために訪れたのである。あくまで冷静に観察するのが目的である。

とにかく4日間、駆け足だったので、疲れたよ。

4_20250423094701
関門海峡、関門橋に落ちる夕陽。

2025/04/21

謎の田中カレー

週末から福岡各地を歩いた。その内容は改めて記したいが、そこで得たお土産。

20250421_173030

福岡県飯塚市の旧伊藤伝右衛門邸を訪ねた際のに売っていた。。。

何が田中で、それが伊藤伝右衛門と何の関係があるのかまったくわからない。

ちなみに伊藤伝右衛門とは、明治~昭和前期までの炭鉱王である。大金持ちとして知られて数々の事業を行った篤志家ではあるが、同時に家族のお嬢様を嫁に迎えたことでも知られる。世に言う「白蓮事件」。朝ドラ「花子とアン」で仲間由紀恵が演じて人気を博した柳原白蓮である。

この白蓮の資料館もあるというので楽しみだったのだが……田中カレーとの関係はわからない。。。

2025/04/15

ブリコラージュ~その日暮らしのトランプ

世にいう「トランプ関税」。世界中を相手に高関税をかけて自国生産主義を押し進める政策だ。

私は、どうせ1週間もしたら破綻すると睨んでいた。なぜなら、アメリカ企業の株価は暴落するだろうから。それが1週間も続けば持ちこたえられない……。ところが、13時間後に撤回した(笑)。半日しか持たなかったのだ。ただし株価ではなくて米債権の暴落=長期金利の上昇が引き金だったようだけど。
中国だけは145%の関税を残し、実質的に貿易を停止させたが、翌日には「スマホやパソコン、半導体製造機器は外す」と言い出した。輸入できなくて困るのは自国だったことに気づいたのだ(笑)。ところがまた日が明けると、今度は「スマホには別の関税をかける」と言い出した(笑笑)。よく言えばトライ&エラーだが、ようするに朝令暮改。

K10014773081_2504081247_0408125000_01_02

これは政策の「ブリコラージュ」なのだと気づく。文化人類学者のレヴィ・ストロースが言い出した概念だ。

ブリコラージュ(Bricolage)は、「寄せ集めて自分で作る」こと。「器用仕事」とも訳される。ただ、具体的にはその場しのぎ。目の前にあるものを利用して辻褄合わせをする。わかりやすいイメージを探せば「ありあわせの料理」だ。冷蔵庫の中にある食材を使って、思いつきでつくる料理である。
レヴィ・ストロースは、未開社会の調査を行って、彼らが無計画的に動きつつ、なんとか完成・実現させる姿を観察した結果、この概念にたどりついた。トランプも、貿易赤字を減らす方策にすでにある「関税」制度を利用することを思いついたのだろう。その弊害は、後で考える。不都合が出たら、ちょこちょこいじる。

実は私も、ブリコラージュを経験している。ボルネオのイバン族の村に行き、そこで村民と日本人で水道を建設するというミッションに従事したことがあるのだが、オタオタした。まず湧き水から村までのパイプの引き方が、実にいい加減(笑)。結局、渓流ではなく池から引くことに。そして水のくみ上げるための櫓の建築も、木材を適当に切って、適当に合わせていく。ポンプも、まず設置してから上手く行かないと、調節しながらなんとか動くようにする。でも、水を流しながらパイプを切断したりするのだから、大騒ぎ。

10_20250415093701ボルネオの村にて

それでも形にするところがブリコラージュの面白さなのだが、これは小規模事業において現場の判断で行うものだ。指導者がやると、現場はついてこれず大混乱をもたらす。身近な例では、関西万博のリーダーがブリコラージュ的に事業推進したから、混乱を引き起こした。

朝令暮改、ブリコラージュは、「その日暮らし」とも言い換えられるだろう。
そこで思い出したのは『「その日暮らし」の人類学』である。

81x9vnyvel_sl1500_-1

小川さやか立命館大学教授の本のタイトル。

この本に描かれるのは、主にタンザニア商人の生態なのだが、計画的でなく、目先の商売や商品に飛びついてやり繰りするビジネスである。それが香港など世界的ネットワークで動いており、失敗もするが意外と上手く行ったりもする。
とはいえ、それは少人数小規模のビジネスだからである。世界的経済を動かす国家アメリカがやればどうなるのか。壮大な実験のように見えて、すぐ破綻するのは予測できるのだが……。この本のサブに「もう一つの資本主義経済」ともあるのが示唆的だ。

トランプは、政策を十分に検討せずにまずやってみる、それに齟齬が起きたら修正する、撤回する、また次の手を考える……をタンザニア商人なみに繰り返すのだろう。その日暮らし政策なのである。事前に結果を予測する声があっても受け入れない。トランプの記憶力は、一晩寝たら忘れるレベルだから、事前のブリーフィングが役に立たない(笑)。日本政府が、在日米軍にいかに金を払っているか、世界最大の対米投資をしているか、と訴えても、一晩寝たら「日本はアメリカを搾取している」と言い出す(´_`)。

今後、アメリカは「信用できない国」として世界中に刷り込まれるだろう。

とまあ、トランプの政策の幼稚さを指摘するのは簡単なのだが、私はあえてブリコラージュ手法に注目したい。もう一つの資本主義、強欲な計画的資本主義の代わりになる政治経済としてブリコラージュはどうだろう。

事前に計画を練って忠実になぞる産業ではなく、その日暮らしの産業が勃興する。

たとえば木造で建築する場合に、計画的にどんな部材が必要か、どんな品質の建材を何本調達するか……と考えるが、調達できない分はすぐに手に入る素材を使って建築する。使えないと思い込んでいた細い、短い、曲がっている材を活かした建築を行う。金具がなければ紐で縛る、セメントがなければ石を積む、石がなければ土を固める。屋根は樹皮か木板で葺こう……。そうしたら資源の無駄遣いを抑えられる。実は、昔の日本の大工はそうした建築を行ってきた。

よりすぐりの材料を計画どおり集めようと選別するから、多くの無駄を出す。余っているものを使う、使えないと思っていたものを使う発想を持てば環境に優しく、SDGsな展開が可能になる。

1_20250414095401
なんかよくわからない、あり合わせの建築

ブリコラージュは、個人でやれば「職人芸!」と称賛される。ただ産業とするには、一工夫いる。そこで、職人芸をシステム化、その場しのぎをマニュアル化する。これぞポスト資本主義?

壮大な矛盾を含む概念だが、巨大産業の欠陥を補完しつつ環境負荷を抑えるには、一考に値すると思うのだが。

 

2025/04/07

里山破壊から回復するまで

東京大学大学院の研究

20世紀初頭までの里山荒廃が 下流環境に与えた長期的影響を解明 ――明治以降の山地環境変化と土砂流出の関係―― 

これによると、1930年代まで続いた里山の過剰利用、つまり環境破壊の影響が60年経った1990年代まで続いていたことを土砂流出の点から明らかにしたもの。

これは大学演習林のある愛知県瀬戸市の白坂流域で観測されたもの。30年代には、すでに裸地面積が流域の8.6%だった。それが1965年頃まで8.011.3%の間を推移したが、1970年代に急激に減少し1980年代には数%以下となった……という点と、土砂流出量を重ねたものだ。ようするに過剰利用で失った森林が1970年代にほぼ回復したが、その後も土砂は流れ続けて90年代まで続いた……ということだろう。

40_202504071633011907年の瀬戸の里山

おそらく世間は、里山が自然破壊?と疑問を持つのかもしれない。里山は、人の活動と自然が上手くかみ合って、むしろ豊かな自然を生み出している……という言説が広がっているからだ。環境省も「SATOYAMAイニシアティブ」なんてのを世界に向けて発表している。里山のように上手く利用すれば、自然は守られるし、人も利益を得られる、というわけだ。

ところが、すでに20年ぐらい前から日本の里山は、全然自然を守っていなかったことが歴史的に証明されてきた。社叢、いわゆる鎮守の森も、明治~昭和までバンバン伐られていた。
里山は、どちらかというとはげ山だったのである。
私の地元の生駒山も、草山だった。木々はほとんど生えていなかった。そのほか、明治時代の写真で、里山が剥げていることは簡単にわかる。

この研究では、ようやく里山の破壊が治まって木々が生えてきても、土砂は流れ出ていたことを示す。表土が回復するのは緑の回復より約20年遅れだったわけだ。

私は、このところ人間の自然再生事業に懐疑的になっている。

今年になってからも、再造林の嘘くささを示した記事を書いている。

再造林すればいい、のか

ほかにも思い出すのは、アメリカのプレゼンテーション番組TEDだ。(いくつかのキーワードを打ち込むと、すぐに出てきた。最近の検索は進んでいる。)

TED日本語 - バーニー・クラウス: 自然界からの声

一度破壊した自然が回復するまでには、植林すれば早くできる、というものではないのだ。

003_20250407164201

瀬戸市で万博が開かれた(2005年)海上の森。撮影したの2008年だから、里山破壊後100年ぐらい経っている。森の見た目は、ほぼ完全に回復している。だが、動植物の生態系や、土壌はどうだろう。

 

2025/04/04

「反共感・非共感」の業界

イーロン・マスクは「西洋文明の根本的な弱さは共感だ」と訴え、他者に共感することの害悪を唱えたという報道は、一時期話題を呼んだ。

『反共感論』という本も出ており、人が他者に対して共感することを否定・批判する声は一定数いるようだ。

そりゃ、行き過ぎた共感が同調圧力となり、間違った行動を取ったり暴力を生むケースもあるが、共感そのものを否定してよいとは思えない。

しかもマスクは、自分が自閉スペクトラム症であることを認めている。この発達障害の一種は、対人関係が苦手でコミュニケーション困難のある症状を持つ。だから自分の気持ちを伝えたり、相手の気持ちを察したりすることが難しいのだ。言い換えると共感ができない・共感しにくい性格なのである。これを突き詰めるとサイコパスとなる。他人の痛みを共感するどころか理解できず、苦しむ様子を平然と楽しめる。

そんな彼が共感を否定しているというのは……。

71znwkuwy5l_uf10001000_ql80__20250405000501

この話を聞いて私が思い出したのは、最近の進化論、とくにホモ・サピエンスの生き残りに関する仮説だった。

10万年程度前には、地球上に多くの人類がいたらしい。有名なのはネアンデルタール人だが、ほかにもデニソワ人など幾種類もの人類が存在した。その中でなぜホモ・サピエンスが生き残れたか。知能や体力で言えば、ネアンデルタール人の方が高かったという研究も出ている。大脳の大きさは我々を凌駕していたし、筋肉もたくましく、力が強かった。だが、弱い我々が生き残った。

その理由を「共感」に求める研究が最近増えている。ホモ・サピエンスは肉体的には弱かったが、他人への共感性が強くて、助け合いが行われた。集団も家族単位のネアンデルタール人より大きいな数十人の村をつくった。それが社会性を生み出して狩りによる獲物の確保や、氷期を生き延びる手立てとなったという。コミュニケーションの発達も知能を高めることにつながる。

集団生活によるコミュニケーションでは情報の交換と集積を強め、他者の行動や獲物の出現などの未来予測を可能にする。また共感するゆえに争いを減らし、攻撃性を弱めて個体数の拡大をうながす。

これは、人類だけでなく多くの動物にも当てはめられるようだ。

オオカミの攻撃性を弱め共感性を強めた遺伝子が、イヌを生み出した。それを動物の家畜化という言い方もするが、誤解を呼ぶ表現で、ようするに他者と仲良く暮らせる進化なのである。

実は人類も家畜化することで穏やかな社会を築いてきたとする。

91znyqindl_sl1500_

さらに『マザーツリー』で示されたように、植物だって助け合うことが知られてきた。異種同士が水や養分を分かち合い、敵に対処するというのだ。

91ncambzejl_20250405000601

反共感論は、こうした人類進化の決め手を否定していることになる。

米・トランプ政権のメンバーは、概してみんな共感性が弱いようだ。トランプ自身は、共感性が弱いというより目先のことしか考えない・考えられない人間のようだが、未来予測ができない点では似ている。身の回りの人には共感し、今現在の状況には強く反応するが、遠くの人・将来の可能性には興味を抱かない人間だと思う。

米政権の「関税」政策が、今後引き起こす大混乱は、きっとアメリカ自身を痛めつけるだろう。関税で守られたアメリカの商品は、競争を失って進歩しなくなるし、世界中から反感を買ったからだ。

アメリカは、これまでも横暴な面もあったが、西側諸国内では最終的に「味方」してくれると思われてきた。それを破壊したのだから、もはや信頼を失ったことになる。一度失われた信頼感は、長く続く。仮に政権交代が行われても、すぐには取り戻せない。
もう、アメリカから武器を買わなくなるかもしれない。アメリカの重要な産業である軍需産業は痛手を受けるだろう。しかし信頼できない国の武器は購入できない。航空機も、自動車も買えない。

さらには基軸通貨としてのドルも危うくなる。最終的な決済はドルで行うという世界経済の常識は、アメリカが保証してくれるという信頼感で成り立っている。それがなけれはドルを使わない決済が今後広がるのではないか。

……と、アメリカの政策を論じてみたところで、最後に日本の産業界に当てはめると、林業・木材産業は共感が極めて弱い業界だ(笑)。

山主、素材生産業者、木材市場、製材業者、建築業者……いずれもお互いを信頼せずに、情報も交換せず、いかに他者を出し抜いて自分だけが儲けられるかを考えている。他者他業種への共感はなく、同業者もライバルとしか見ていないのではないか。業界の発展よりも自分ファースト。

ほれ、トランプ政権と似ているでしょ( ̄ー ̄)ニヤ。

より以前の記事一覧

May 2025
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

森と筆者の関連リンク先

  • Yahoo!ニュース エキスパート
    Yahoo!ニュースに執筆した記事一覧。テーマは森林、林業、野生動物……自然科学に第一次産業など。速報性や時事性より、長く読まれることを期待している。
  • Wedge ONLINE執筆記事
    WedgeおよびWedge on lineに執筆した記事一覧。扱うテーマはYahoo!ニュースより幅広く、森林、林業、野生動物、地域おこし……なんだ、変わらんか。
  • 林業ニュース
    日々、森林・林業関係のニュースがずらり。
  • 森林ジャーナリストの裏ブログ
    本ブログの前身。裏ブログとして、どーでもよい話題が満載(^o^)
  • 森林ジャーナリストの仕事館
    田中淳夫の公式ホームページ。著作紹介のほか、エッセイ、日記、幻の記事、著作も掲載。